バンクーバーに到着して3日目、月曜日。
いつものように朝ごはんを食べた。
少しだけ朝の会話や挨拶に慣れていたが、まだぎこちなかった。
今日は昨日までの予定なしの日と違い、午後にカナダジャーナルのオリエンテーションがある。
語学学校が決まっている人は月曜日から学校なので、学校が終わる15時半くらいから
オリエンテーション開始とのことだった。
僕は語学学校を決めずに来たので、朝ゆっくり食事を済ませ、
のんびりと11時くらいに家を出た。
平日はファミリーが昼食を持たせてくれる。
この日はチーズや玉子が入ったサンドイッチとジュースを持たせてくれた。
ホストファミリー宅を出てバスに乗り、ダウンタウンへ向かう。
土曜、日曜と練習したので、迷うことなくバスに乗ることができた。
バンクーバー図書館で
15時半までは少し時間が空いていたので、僕はダウンタウン内の停留所で降りて
バンクーバー図書館に行くことにした。
お昼ご飯の時間が近かったため、ベンチで持ってきた昼食を食べた。
ジュースはDoleだっただろうか。甘くておいしい。
サンドイッチのパンは固かったが、ハムとチーズが挟まっていておいしい。
ファミリーのご飯がおいしくてよかったと思った。
昼食を終えると、さっそくバンクーバー図書館を見て回った。
大きな図書館だけあって、自習スペースが多い。
カナダ人や、留学生、日本人の姿もみえた。
本もたくさんあって、英語の本もあれば日本の本もあった。
その中で、サッカーの長友佑都さんが書いた「日本男児」という本を手に取って読んだ。
サッカー選手は当時から海外で活躍する選手が多かった。
選手が出した本をバンクーバーにきて読むとは思わなかったけど、
長友さんの本を読んで勇気づけられた。
日本人は体が小さい、アジア人、母国語でない国で戦う。
そんな中で、自分を信じて、チームメイトとコミュニケーションを取り、強い精神を持ち、海外でプレーする。
もちろん語学力も必須なので勉強する。
僕は日本から、サッカーの長谷部誠さんが書いた著書「心を整える。」も持ってきていた。
長友さん、長谷部さんを見ていると、海外で孤独に戦う日本人のメンタリティを学ぶことができた。
僕はいま、海外で戦っているわけでもない。
ファミリーも優しい。こんな恵まれた環境の中で弱音を吐いている場合じゃないな。
自分を奮い立たせた。
現地オフィスへ
図書館で読書と自習をしていると、頃合いの時間になったので
カナダジャーナルのオフィスに向かった。
今日はここで、新しくワーホリで入った人たちのオリエンテーションが開かれる。
集まったのは、僕と同じ2月にバンクーバーに到着したワーホリ生たちだった。
3人くらいいて、みんなに挨拶した。
日本語で気楽に話せる感覚が久しぶりで、とても安心した。
オリエンテーションでは、現地での生活についての説明をしてくれた。
- 電車とバスの乗り方
- 銀行口座の作り方
- 両替のレートがいい店
- ご飯がおいしいレストラン
- 携帯電話の契約方法
- お金のこと、緊急時の連絡先
銀行の口座を一緒に作りに行ってくれたり、携帯に関しては提携している会社を紹介してくれたりと、
現地をなにも知らない僕には本当に助かった。
ひと通り、必要な手続きを済ませた。
そして僕も、ようやくカナダで使う自分の携帯電話を手に入れた。
(ただし、これは今のスマートフォンとは違うものだった。
友達とメッセージのやり取りができて、電話ができるシンプルな端末)
当時からスマホはあったけれど、スペックの高いものは5万以上していた。
この頃は機種にそこまでのお金をかける意識がまだなかったように思う。
ワーホリ生の多くは僕と同じような、テキストメッセージと通話ができるものを使用していた。
エージェントで知り合った人たちと連絡先を交換した。自然に仲良くなれた。
彼らの中にも状況はいろいろで、僕と同じように社会人を辞めてきた人もいれば、
大学生で2ヶ月だけ来たという人もいた。
大学生の彼は3月末には帰国しなければならない。
別れの日にはとても寂しくなるんだろうなと思った。
バンクーバーのスターバックスへ
オリエンテーションが終わった後、エージェントのあゆさんも一緒に
近くのスターバックスに入った。
バンクーバーに来て本格的にお店に入るのは初めてだった。
あゆさんが話しているフレーズを一生懸命聞いて、真似して注文したことを覚えている。
「here or to go?」と聞かれて、一瞬何を聞かれているのかわからなかった。
日本では持ち帰りのことをテイクアウトというけれど、ここでそれは通じないことを知った。
その後、あゆさんは仕事があるのでオフィスに戻った。
他のメンバーで、ダウンタウンをふらふらした。
同じ日に来た仲間との時間は安心できた。
一人だと緊張しっぱなしだったけど、仲間がいれば誰かが助け舟を出してくれるし自分が助けることもできる。
スカイトレインにみんなで乗ったり、Tim Hortonというカナダ発祥のカフェに入って
ドーナツを頼んだりした。

そんなことをしているうちに、夕方になった。
そろそろホームステイ先に帰ろうという話になり、ダウンタウンでみんなと別れた。
ホームレスとバス停
帰り道、バス停でバスを待っていた。
すると、ホームレスがバスを待っている人に一人ひとり声をかけているのがわかった。
お金をくれと順番に聞いてまわっているように見えた。
しばらくして、僕の前にも来た。
「Give me money」
僕はNoと言ったが、コインでいい。1セントでもいいんだ、なければ余ったパンでもいいんだ。
お菓子でもいい。困っているんだ。恵んでくれという。
日本のホームレスは公園や軒下のような濡れない場所に目立たないようにして過ごしているイメージだったので、
バンクーバーのホームレスが積極的に話しかけてくることに驚いた。
あまり怪訝な顔をするのもどうかと思い、彼につきあっていると、
気づいた時にさりげなく彼が僕のポケットに手を突っ込んでいるのに気づいた。
僕は大声で叫んで、相手の手を払いのけた。
彼は舌打ちのような顔をして、次のターゲットの元へ行った。
カナダは治安のいいイメージがあったけど、日本ほど安心して暮らせはしない。そう思った。
ここは自分の身は自分で守る意識が必要で、留学生とかそういうことは関係ない。
身を持ってそれを体感した。
乗り過ごした夜道で
バスに乗り、今日1日のことを振り返っていた。
楽しい出会いもたくさんあったけれど、最後のホームレスが印象深すぎた。
ぼーっと考え事をしていたら、最寄りのバス停を1つ過ぎてしまった。
次のバス停で降りて、歩いて帰ることにした。
この日は雨だった。
バンクーバーは雨が多い街で、僕がバンクーバーに到着してからは一度も晴れた日がなかった。
2月のうち、晴れていた日は4日か5日くらいしかなかったと記憶している。
知らない停留所から降りて暗い中を歩く。
ホームレスの記憶、英語でほぼ何も話せない、そして天気は雨。
本当にここで生きていけるのか?と不安になり、急いでホストファミリー宅に帰った。
母との会話
日本にいる母と、Skypeで会話した。
「ちょっとバンクーバーは想像と違った。ここでやっていけるかがわからない。
もしかしたら2週間くらいで帰るかもしれない」
精一杯の強がりで会話した。本当はすぐにでも帰りたかった。
母から返ってきたのは、想像と全然違う答えだった。
「まだ3日目。何のために仕事やめたんだ。とりあえず1ヶ月は頑張りなさい。それからまた考えたら?」
母と会話したことで安心して、なんとなく心の荷がおりたような気がした。
帰りたければ帰れる。明日飛行機を予約して、成田行きに乗ればすぐに帰れる。
当たり前のことに気づいた。
だから、本当にもう限界だなと思うまでは、とりあえずやってみよう。
ひとまず、英会話くらいは覚えよう。
1ヶ月やってみて、それで考えよう。
そう決めて、Skypeを切った。
少しずつでいい。少しずつ、慣れていこう。
